受刑者個々に適した刑務作業を選択・付与することは受刑者の社会復帰に寄与するだけでなく,社会情勢の変化・技術的発展に伴う刑務作業への社会的な要請の変化に対応していく意味でも重要なことである。本研究では行刑施設被収容者の作業適正配置のための基礎研究を行うことを目的とし,具体的には適性項目として何を取り上げ,刑務作業を適性の観点からどう分類すべきか,そしてそれらをどう利用して判断を行うべきかについて検討した。
まず研究に先立って,全国52施設755工場の刑務作業担当者への適性に関する調査を行った。その結果,現在業種表にある約170職種の中の約半数程度が常態的に行われていることが分かり,更に中心的に行われている36職種について必要とされる適性を概観したが,工場担当者が作業の危険度,複雑さ,体力,対人接触の度合などを主な判断材料として受刑者の適・不適を考えていることが分かった。
次にこれに基づき適性として当面取り上げるべき評価項目を選択し,次のようになった。
1.他者への感染危険性の評価 2.事故時に予想される本人の身体への危険性の評価 3.薬品の使用度 4.機械の操作量(特に大型機械や複雑な機械) 5.体力の必要度の評価 6.肢体自由度と障害の評価 7.視力必要度の評価 8.色神健常度の評価 9.聴覚健常度の評価 10.資格必要度の評価 11.実施経験の評価 12.指先の器用さの評価 13.高所恐怖の有無 14.能力の必要度の評価 15.読み書きの評価 16.機敏さの評価 17.協調性の評価 18.指導性の評価
更にこれらの適性評価項目を基準として刑務作業の見直しを行い,140作業を配役先として選択した。なお便宜的に自営・生産作業と大別し,扱う対象毎に細分類したが,適性が中心となっているために処理上はそれぞれの作業は独立したものとして扱われている。
最後に判断システムを試作し,その適切さを確認した。その手続きは個人毎に全職種に基礎点0を与えた上で,絶対必要とされる適性を個人が持っていない場合には,-999を与え,不適当な場合には若干のマイナス点を,適当な場合には若干のプラス点を与え,最終的に高得点を付与された作業を列挙する形をとった。なお作成過程において,各適性評価項目の重みを調整し,新たに関連作業表を導入した。関連作業表とはある作業に習熟している場合,それに関連する作業にもある程度の加算が行われるようにしたものである。
試作された判断システムはそのまま実用になるものではない。実用に向けては使い勝手を改良する必要があり,施設固有の作業などを組み込むことを行わなければならない。しかし,今後の作業適正配置を考える上では十分に議論のたたき台になるものと思われる。